資料を示しながら話す人と、相手の話を聞く人

誰の動作を尊敬語にする?

尊敬語は、相手や第三者の動作・持ち物・状態を述べ、その人への敬意を表す言葉です。「ご覧になる」は見る人を、「お忙しい」は忙しい状態にある人を立てます。取引先やお客様には、年齢が自分より若くても、その立場に配慮した言葉を使います。

動作をする人と、話を聞く人を確かめると選びやすくなります。自分が資料を見るなら「拝見します」、相手が見るなら「ご覧になります」です。同じ会社の上司でも、社内で直接話す場合と、取引先へ紹介する場合では表現が変わります。

「説明する」を社内・社外で使い分ける
場面言い方敬意の向け方
社内で、上司本人に説明の予定を尋ねる部長、会議ではどの部分をご説明になりますか。説明する上司を立てる。
取引先へ、自社の上司の予定を伝える当日は、部長の田中が説明いたします。自社の上司を立てず、取引先へ丁重に伝える。
取引先の担当者の説明を受けて確認する先ほどご説明になった納期は、来月15日でよろしいでしょうか。説明した取引先の担当者を立てる。

社内の会話では、話し手・聞き手・話題の人物の関係や職場の慣行も考慮します。「自社の人にはいつでも尊敬語を使わない」と覚えると、上司へ直接話す場面で取り違えます。社外へ上司を紹介する呼び方は、役職の呼び方・敬称でも確認できます。

よく使う動詞と仕事の例文

相手の行動や状態を尋ねるときの尊敬語
普通の言葉尊敬語使う場面・例文
行く・来る・いるいらっしゃる電話で在席を尋ねる:田中様はいらっしゃいますか。
言うおっしゃる発言を受ける:先ほどおっしゃった数量で、見積書を作成します。
するなさる予定を尋ねる:休憩は何時ごろになさいますか。
食べる・飲む召し上がる飲み物を勧める:どうぞ、温かいうちに召し上がってください。
見るご覧になる資料の確認を尋ねる:添付の資料はご覧になりましたか。
知っているご存じだ・ご存じです認識を尋ねる:会場が変更になったことはご存じですか。
聞くお聞きになる内容の確認を尋ねる:担当者の説明はお聞きになりましたか。
待つお待ちになる場所を尋ねる:お連れ様は、受付でお待ちになりますか。
読むお読みになる文書の確認を尋ねる:注意事項はお読みになりましたか。
利用するご利用になる交通手段を尋ねる:会場までは、送迎バスをご利用になりますか。

「いらっしゃる」は行く・来る・いるの3つに使う

同じ言葉でも、場所や時刻を添えると意味が伝わりやすくなります。

  • いる:「田中様は、ただいま事務所にいらっしゃいますか。」――現在の在席を尋ねる。
  • 来る:「明日は、何時ごろこちらにいらっしゃいますか。」――到着時刻を尋ねる。
  • 行く:「午後は、別会場へいらっしゃいますか。」――相手の移動先を尋ねる。

自分の移動には「いらっしゃる」を使いません。相手のもとへ訪ねるなら「伺います」、聞き手へ丁重に行くことを述べるなら「参ります」といった選択になります。向かう先との関係は、伺う・参るの使い分けを確認してください。

「ご存じです」は、知っている状態を表す

「ご存じですか」「ご存じでしょうか」は、相手がすでに知っているかを尋ねる形です。「ご存じします」とは言いません。自分が知っていることを伝える場合は「知っています」「存じております」などを使います。

相手の知識を試すような聞き方を避けたいときは、必要な情報を先に伝えることもできます。例えば会場の変更なら、「会場は本館から別館へ変更になりました。ご不明な点があればお知らせください」と伝えれば、知っているかを問い返さずに案内できます。

「おられる」で迷うときは

「おられる」は、地域や文章の文体によって尊敬の表現として使われることがあります。一律に誤りとは言い切れません。使い方の好みが分からない相手へ電話で在席を尋ねるなら、「いらっしゃいますか」を選ぶと迷いを減らせます。地域・文体による違いは、末尾の小学館の解説で確認できます。

お〜になる・れる/られるの作り方

決まった尊敬語がある動詞は、その形を使います。それ以外には「お読みになる」「ご利用になる」や、「読まれる」「利用される」などの形があります。

動詞を尊敬語に変える3つの形
作り方例注意する点
決まった言葉へ変える言う→おっしゃる
する→なさる
「おっしゃられる」のように、さらに「れる」を重ねない。
お/ご〜になる読む→お読みになる
出席する→ご出席になる
見るは「ご覧になる」。すべての動詞へ機械的に「お」「ご」を付けられるわけではない。
れる/られる読む→読まれる
来る→来られる
文脈によって受け身や可能の意味にもなる。相手の動作を尋ねるときは、意味が明確になる表現を選ぶ。

例えば「資料は読まれましたか」で誰が読んだのか分かりにくいときは、「資料はお読みになりましたか」と尋ねられます。「お/ご〜になる」がなじまない動詞もあり、運転するなら「運転なさる」「運転される」を使います。

できるかどうかを尊敬語で尋ねる場合は、「ご利用になれますか」のように、尊敬語を可能の形にします。相手が答えられるかを尋ねるなら「お答えになれますか」です。「お答えできる」は、自分側が相手へ答えるときの謙譲語の可能形なので、相手自身の行動への尊敬語として使わないようにします。

名前・住所・状態にも敬意を表せる

相手の名前なら「お名前」、住所なら「ご住所」、相手が忙しい状態なら「お忙しい」と言えます。一方、自分の名前を名乗るときは「私の名前は田中です」のように述べます。「お料理」のように言葉を上品にする美化語もあるため、「お」「ご」が付けばすべて尊敬語、とは判断できません。

避けたい言い方と直し方

動作をする人と語の形を確認する
見直したい言い方言い換え理由
私がご覧になります私が拝見します自分が見る行動に、見る人を立てる尊敬語を使っている。
田中様がおっしゃられた件田中様がおっしゃった件「おっしゃる」に尊敬の「れる」を重ねている。
資料はご覧になられましたか資料はご覧になりましたか「ご覧になる」に尊敬の「られる」を重ねている。
送迎バスをご利用されますか送迎バスをご利用になりますか
送迎バスを利用されますか
尊敬語の「ご利用になる」か「利用される」の形を選ぶ。

一文に敬語が複数あっても、それだけで二重敬語になるわけではありません。「資料をご覧になりましたか」の「ます」は聞き手へ丁寧に述べる働きで、「ご覧になる」と一緒に使えます。慣用表現などとの違いは、二重敬語の見分け方と言い換えを確認してください。

発言・送信前に確かめること

  1. 動作をする人を確かめる。相手が見るのか、自分が見るのかを明確にし、「ご覧になる」と「拝見する」を選ぶ。
  2. 誰に伝えるかを確かめる。社内の上司本人への話と、社外へ自社の上司の行動を伝える話を分ける。
  3. 用件が伝わるかを確かめる。在席なら現在の場所、訪問なら日付・時刻、確認なら資料名や期限を添える。敬語の形だけを整えて用件を曖昧にしない。