「明日、御社へ伺います」と「明日、御社へ参ります」は、どちらも改まった訪問の連絡に使えます。ただし、敬意を向ける先は同じではありません。「伺う」は訪ねる先を立て、「参る」は話を聞く相手に丁重に述べます。この違いを押さえると、質問・招待・伝言の言葉も選びやすくなります。

机の資料を挟んで会話する二人。誰の行動を誰に伝えるかを確認する場面
自分側の行動を述べるときは、その行動の相手と、話の聞き手を分けて考えます。

謙譲語Ⅰ・Ⅱの違い:誰に敬意を向けるか

文化庁の「敬語の指針」では、謙譲語をⅠとⅡに分けています。自分側の行動について述べる場面が中心ですが、単に「自分の動詞を全部置き換える」と覚えると、向かう先のない行動にも使ってしまいます。

謙譲語Ⅰ・Ⅱと丁寧語の役割
種類敬意の向き例と使う場面
謙譲語Ⅰ自分側の行動が向かう先を立てる取引先を訪ねる「伺う」、相手の資料を見る「拝見する」
謙譲語Ⅱ
(丁重語)
自分側の行動などを、聞き手へ丁重に述べる移動を述べる「参る」、名乗る「申す」
丁寧語話や文章を丁寧に述べる「です」「ます」「ございます」

「行動が向かう先」は、訪問先だけではありません。質問なら尋ねる相手、説明なら説明を受ける相手、資料ならその持ち主などです。話を聞いている人と同じ場合も、別の人の場合もあります。

「伺います」の「伺う」は謙譲語Ⅰ、「ます」は丁寧語です。改まった会話では、こうして組み合わせて使います。一方、「ございます」は丁寧語であり、それ自体を謙譲語Ⅰ・Ⅱとは分類しません。

「伺う」と「参る」はどう使い分ける?

訪問先と聞き手が同じ取引先なら、どちらも使えます。違いがはっきりするのは、別の人への訪問を報告するときや、敬意を向ける訪問先のない移動を伝えるときです。

訪問先と聞き手を分けた文例
場面文例判断のポイント
取引先に、その会社への訪問を伝える「明日15時に御社へ伺います」
「明日15時に御社へ参ります」
前者は訪問先を立て、後者は聞き手へ丁重に述べる。どちらも使える。
別の取引先を訪ねたことを、上司へ報告する「午前中、青木様の事務所へ伺いました」「伺う」で立てるのは、聞き手の上司ではなく訪ねた青木様。
取引先に、資材倉庫へ移動する予定を伝える「午後は資材倉庫へ参ります」特に立てる訪問相手のいない移動も、聞き手へ丁重に述べられる。

「伺う」には、訪ねるだけでなく、尋ねる・聞くという意味もあります。「ご希望を伺います」は相手の希望を聞く場面、「一点、伺ってもよろしいでしょうか」は相手に質問する場面です。「参る」へ機械的に置き換えることはできません。

仕事で使う謙譲語の一覧と例文

以下は、自分側の行動を取引先などに伝える文例です。Ⅰでは誰に向かう行動か、Ⅱでは誰が聞いているかも確認してください。

自分側の行動を述べる言い換え
元の動作表現・種類文例
訪ねる・尋ねる・聞く伺う(Ⅰ)「ご希望の日程を伺います」
見る拝見する(Ⅰ)「お送りいただいた見積書を拝見しました」
相手に言う申し上げる(Ⅰ)「ご協力にお礼を申し上げます」
案内するご案内する(Ⅰ)「会議室へご案内します」
もらういただく(Ⅰ)「青木様から資料をいただきました」
行く・来る参る(Ⅱ)「担当の者が明日そちらへ参ります」
言う・名乗る申す(Ⅱ)「営業部の佐藤と申します」
するいたす(Ⅱ)「本日中に確認いたします」
いるおる(Ⅱ)「担当者はただいま席を外しております」
思う存じる(Ⅱ)「この方法がよいと存じます」

「拝見する」は、単に何かを見るたびに使う言葉ではありません。上の例では、見積書を送った相手への敬意があります。また、資料を相手に見てもらうときは「拝見してください」ではなく、「ご覧ください」とします。

一覧の「いただく」は、資料などを「もらう」意味の文例です。相手から受け取ったことを述べる表現として使い、何をもらったのかも明確に伝えましょう。

招くなら「お招きする」、招かれたなら「ご招待いただく」

招待の文では、自分が招く側なのか、招待を受ける側なのかを先に決めます。両者は、同じ「招く」の言い換えではありません。

伝言では、伝える先と聞き手を分ける

取引先から、自社の担当者へ伝言を頼まれたとします。返答は「担当の青木に申し伝えます」とすれば、取引先へ丁重に、自分の行動を伝えられます。文化庁は「申し伝える」を謙譲語Ⅱとして説明しています。伝える先の青木を立てる言葉ではありません。

逆に、取引先へ自分のお礼を伝えるなら「お礼を申し上げます」のように、伝える相手を立てます。伝言を受けた場面と、相手へ直接述べる場面を区別しましょう。

避けたい使い方:相手の動作に謙譲語を当てない

改まった電話やメールでは、相手が行う動作を、まず尊敬語で表すことを考えます。特に、相手から自分側へ向かう行動を謙譲語Ⅰにすると、自分側を立てる形になってしまいます。

相手側の動作を述べるときの見直し
見直したい文言い換えの例理由
「お客様が弊社へ伺います」「お客様が弊社へいらっしゃいます」来るお客様を立てる。訪問先の自社を立てる「伺う」は避ける。
「この資料を拝見してください」「この資料をご覧ください」見る相手の行動に尊敬語を使う。
「ご不明な点は、弊社担当者に伺ってください」「ご不明な点は、弊社担当者にお尋ねください」尋ねるお客様を立てる。尋ねられる自社の担当者を立てない。
「青木様がそう申しました」「青木様がそうおっしゃいました」第三者の取引先を立てて話すなら、発言を尊敬語で述べる。

「お待ちいたします」のように、待つ相手を立てる謙譲語Ⅰと、聞き手に丁重に述べる謙譲語Ⅱを組み合わせる形もあります。敬語が複数あるだけで誤りとは判断しません。形の重ね方で迷う場合は、二重敬語の見分け方と言い換えを確認してください。

会話・メールで迷ったときの確認順

  1. 誰が行う動作かを見る。相手が見るなら「ご覧になる」、自分が相手の資料を見るなら「拝見する」と、主語から判断します。
  2. その行動が向かう相手を確かめる。訪ねる先、質問する先、招く相手が誰かを確認し、そこを立てるなら謙譲語Ⅰを選びます。
  3. 聞き手にどう伝えるかを決める。移動や自分側の予定を改まって述べるなら「参ります」「いたします」などを選び、日時・用件も分かる文にします。

例えば「明日行きます」なら、単語だけを置き換えず、「明日15時に御社へ伺います」と、訪問する先と時刻を添えると用件が明確になります。職場の会話すべてを最も改まった形にする必要はありません。相手との関係と、その場の改まり方に合わせて選びましょう。